法定相続分と大きくたがわず公平に分けるような内容の遺言であれ特に問題もありませんが、特定の親族に多く渡す場合や、相続人以外の第三者に遺贈するような内容の遺言を残す場合には、財産を貰えなかったり、通常の相続であればもらえるはずだった相続分と比較して極端に少なくなってしまった相続人は大きな不満を抱えることになります。
そこで、民法では遺留分という制度で相続人の相続分を保護しています。遺留分とは、民法で保障された最低限の相続分であり、(第三順位である兄弟姉妹以外の)法定相続人に認められた権利です。遺留分は放棄することもできますが、遺留分を侵害された場合に遺留分侵害額請求(遺留分侵害請求)をすることもできます(時効があるため要注意です)。
遺言の作成は、平成21年~平成30年までの10年間で約30%以上増えています。公証人役場で保管している遺言の数の発表に基づく数字のため、数えることのできない自筆証書遺言も含めると、以前に比べて遺言書を作成することが一般的になってきているといえます。
自分が亡くなったときに大切な家族が揉めないこと、また、相続手続きがより簡易に進み速やかに財産を渡せること、等遺言書の作成にはメリットが多く、弊所でもお客様には全力でオススメしております。
相続が発生すると、一般的には法定相続人は法定相続分にしたがって相続財産を相続します。被相続人は生前に遺言を残すことによって法定相続分とは異なる配分で相続させること、相続人以外の人に財産を承継させることが可能です。
例えば父母子の3人家族、父は遺言書に子に全財産を渡すと記しました。遺言にはどのような記載をすることもできるため、母から文句が出なかった場合には有効になります。また、父が生前のうちに財産の大半を子に贈与してしまう、という場合もあり得ます。いざ相続が始まったら財産が全くなかった、というケースです。
しかし、相続人の立場としては、被相続人が遺した財産を引き継ぐことを期待しているであろうことから、その期待を保護する必要があります。また、配偶者が高齢で専業主婦である場合など、財産を一定以上相続できないと今後の生活を継続していけない可能性もあります。
そこで、民法では上記のような極端な遺言が遺されていた場合や、財産の大半を生前贈与してしまったいたような場合でも相続人が最低限の財産を相続できるように遺留分を設定しています。
それぞれの相続人の遺留分の割合
上記の父母子の家庭で言うならば、相続人が母(父)と子だった場合は、配偶者と子の遺留分はそれぞれ全体の4分の1ずつです。相続財産の合計が5000万円だとすると、母と子の遺留分はそれぞれ1250万円(5000万円×4分の1)となります。
表に記載の通り、遺留分は兄弟姉妹には認められていません。つまり、兄弟姉妹は、遺言により相続分がなかったり、極端に相続分が少ない場合にも遺留分に基づいて主張することが出来ません。
相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合には揉め事に発展するケースが多いです。遺言で配偶者に全財産がわたるように指定しておけば、後から文句を言われることもありません。
もともと遺留分が認められていない兄弟姉妹については、代襲相続人である姪甥にも遺留分は認められていません。
●遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を譲ることです。不公平な遺言によって遺留分を侵害された請求権者は遺留分請求を行うことが出来ます。
●死因贈与
死因贈与とは、贈与者(財産を渡す人)と受贈者(受け取る人)の間で「贈与者が死亡した時点で事前に指定した財産を受贈者に贈与する」という贈与契約を結ぶことで、被相続人の死亡を原因として贈与を行う契約です。
●遺贈と死因贈与の違いは??
どちらも「私が亡くなったら◯◯をあげるね」という形は同じですが、遺言が単独行為(登場人物はあげる人一人)であるのに対し、死因贈与は贈与契約であり、あげる人ともらう人の同意によって成立します。そのため、遺言による遺贈では一方的に渡すことが出来ますが、死因贈与はもらう側が断った場合には成立しません。
●生前贈与
生前贈与とは、贈与者がその存命中に相続人予定者に対して財産を贈与する契約です。贈与者が生きている間に受贈者に対して財産の所有権を移転する点が、死亡と同時に財産を移転する死因贈与と異なります。生前贈与は生きている間であればいつでも行うことが出来ますが、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の対象となるのは死亡前1年以内に行われた贈与です。ただし、当事者である贈与者と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を与えることを知りながら生前贈与を行った場合には、1年より前の生前贈与であっても遺留分減殺請求の対象となります(民法1030条)。
以上のように遺留分を侵害された場合に侵害された遺留分について請求する遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の対象には、遺贈、死因贈与、生前贈与の3種類がありますが、これにも順序があります。
具体的には民法1033条にて、「(贈与と遺贈の順序)贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することが出来ない。」と定められております。これは、遺言を作成した人の意思で一方的に遺贈が実施されるのに対し、贈与契約は当事者双方の合意で行われるため贈与を減殺請求することの影響が大きいためです。
そのため、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の対象の順番として最初に来るのが遺贈となります。その次に減殺請求の対象となるのは死因贈与となります。これは、死因贈与が生前贈与に比べて、死後の効力発生という部分で遺贈に似た性質であるからです。そして最後に対象となるのが生前贈与です。
これによって内容が証明できるだけでなく、発送日の日付を証明できるため、相手側から後々「知らない」「時効だ」と言われる恐れを無くすことが出来ます。遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対しても遺留分減殺請求権を行使する旨を知らせる必要があります。
なお、相手方への遺留分請求の申立を行っていない場合には遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年又は相続開始の時から10年を経過したときに時効によって消滅します。
※この点、平成30年の民法改正により、「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することが出来る」(民法1046条)とされ、相続財産そのものへの請求ではなく、それに相当する金銭の支払いを請求することが出来るようになりました。そのため、令和元年7月1日の新法施行以降に発生した遺留分侵害については最初から金銭での請求ができるようになりました。
遺留分侵害額(遺留分減殺)調停
調停手続きでは当事者双方から事情を聴く、必要に応じて資料などを提出してもらう等をして家庭裁判所が事情を把握したうえで、解決案を提示したり必要な助言をしてくれるなどして話し合いを進めていきます。
遺留分侵害額(遺留分減殺)訴訟
遺留分侵害額(遺留分減殺)請求の訴訟は、裁判所が訴訟の当事者が主張している事実について判断をするため、訴訟の当事者は事実関係や法律上の主張をするだけでなく、その証拠を集める必要があります。
たとえば、被相続人が遺留分を侵害する行為をしたこと、を証拠によって裁判官に認めてもらうためには、被相続人の財産や被相続人による侵害行為について証拠を集める必要があります。遺留分への侵害行為があったというためには遺留分の計算が必要ですが、前提となる被相続人の遺産の範囲がわかっていない場合には相続財産全体についての証拠を集めなければなりません。
このように訴訟にまで進んでいく場合には専門家のサポートが必要であるため、遺留分に関する正確な手続きを進めるためにも随所で専門家に相談することがお勧めです。
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